ラフマニノフの交響曲第2番の個人的名盤

ラフマニノフの交響曲第2番は、私にとって何とも不思議な曲の1つです。そこまで好きな訳でもないのに、実店舗に買いに出掛けるとつい買い物カゴに入れてしまう曲なのです。そのお陰で、いつの間にかある程度の枚数が揃ってしまいました。

恐らく、ラフマニノフの2番には”外れ”が極端に少ないと感じるのです。この曲は誰がどうやってもある程度は”ラフ2″になります。大体のものは程々の気分で心地よく聴ける、良くも悪くも映画音楽のようで気軽な俗っぽい曲だと思うのです。

逆に、この1枚こそ名盤に違いないというものを、私はラフ2に対して持っていません。極端なものであればザンデルリンク、スヴェトラーノフのものが該当するのでしょうが、私はそのどちらもあまり好きではないからです。そのせいで個人的名盤を絞るのには苦労しました。選んだ10枚のどれも、それぞれがずば抜けて特徴的であるとは言えないからです。その内半分がロシア系指揮者による録音であることも、差別化するのに苦労する原因の1つです。

今回は言葉選びと悪戦苦闘した末の紹介になると思います。ただのカタログであると捉えて頂いた方が役に立つと思います。


■デュトワ/フィラデルフィア管:必要最低限の情緒感のあるラフ2

フィラデルフィア管はそんなに好きなオケではありませんが、デュトワが振るとなれば別です。正直に言えばモントリオール響の演奏で聴きたいです。ピアノ協奏曲の方のラフ2は残しているだけに尚更残念に思います。

ラフ2を聴いていると、どうしても甘ったるく、あからさま過ぎて、タイタニックでも見ているかのような感動の押し売りに嫌になることがあります。そんな時はデュトワ盤を聴いて落ち着くことにしています。他盤に比べたら無駄に歌うことも無く、割りと淡々としたラフ2を聴かせてくれるからです。ただでさえ飽きやすいラフ2をやっぱりいい曲だな、と思い返すのは大抵デュトワ盤を聴き直した時です。


■アシュケナージ/コンセルトヘボウ:アシュケナージの癖が嵌ったラフ2

私のアシュケナージの指揮に対する評価には、バレンボイム程では無いにしろ厳しい見方があります。とりわけアシュケナージのドヴォルザークには、何回聴いても煮え湯を飲まされたような気分にさせられます。一方でレスピーギの”シバの女王ベルキス”、”教会のステンドグラス”といった本来のオーケストラ版では珍しい作品も録音していますが、凡演中の凡演です。あんたもピアノだけ弾いていればいいのだ!と何度思ってしまったことか。

そんなアシュケナージの録音について感じるものの例外が、このコンセルトヘボウとのラフマニノフ交響曲集です。オケがコンセルトヘボウということもあり、生真面目でクソつまらないラフマニノフだろう、と思いきや全然違います。とにかく嫌味でしか無かったアシュケナージの解釈が、特にラフ2と上手く噛み合っているように感じるのです。

デュトワ盤とは逆の趣があると言って良いと思います。1楽章からバリバリ盛り上げますし、3楽章は嫌になるほど歌いまくります。かと言ってダルさを聴き手に感じさせないのがアシュケナージの凄い所です。スヴェトラーノフの晩年盤と違うのはここです。嫌らしいと思っていたアシュケナージの解釈は全然嫌味では無く、逆に大好きなスヴェトラーノフの解釈はラフ2には全然合わないと思うのです。ラフマニノフは実に不思議な音楽です。

歌うだけ歌った後の4楽章は、緩急を使い分けながら速めのテンポで進んでいき、所々アシュケナージの癖が目立つ部分がありますが、割りと自然に聴くことができます。音質の良さが寄与している可能性も十分にあります。さながらデュトワ/モントリオール響の録音を聴いているような気分にさせる、Deccaの録音技術があってこその名盤です。


■プレヴィン/ロンドン響:弦楽と木管を引き立てた彩り豊かなラフ2

今でも名盤と扱われているこの1枚に対し、私も素直にそう評価しています。ロンドン響の弦楽と木管の魅力を十二分に引き出した、迫力でゴリ押しをしない美しいラフ2の代表格だと思います。

一方でEMIの録音の悪さがやはり気になりますし、ダイナミックレンジは比較的狭いと思います。他の録音を聴くと、プレヴィン盤は交響曲として少し物足りなさを感じるのも正直な感想です。

プレヴィンの真骨頂は交響曲よりも協奏曲にあると思います。この1枚は決して嫌いな訳ではありませんが、聴く頻度はそこまで高くありません。シフ(Vc.)/プレヴィン(Pf.兼指揮者)のドヴォルザーク作品集の方がずっと繰り返し聴いていられます。


■ロジェストヴェンスキー/ロンドン響:ロシア情緒全開のラフ2

この演奏をやったオケが本当にプレヴィン盤と同じなのか?と疑いたくなるのがロジェストヴェンスキー盤です。スヴェトラーノフ盤ほどではありませんが、聴こえてくる音楽はロシア的です。ブラインドされた状態でこの録音を聴かされたら、ロシアのオケの演奏だと答えてしまうと思います。

ロジェヴェン盤はゲルギエフ盤と同じく、1楽章提示部のリピートを省略していないため長いです。20分を超えます。4楽章も緩急を付けた緩の部分で思いっきり歌うためやはり長いです。15分を超えます。全曲通すと1時間7分と長めな録音です。ザンデルリンク盤の1時間8分に迫るものですが、それと違って緩急を付けるためそこまでの冗長さを感じさせません。これはこれで私にはアリです。流石に頻繁には聴きませんけど。快速でガツガツ進みキンキンに金管が鳴るロシア的なラフ2であれば、スヴェトラーノフ/USSRの68年盤が良いと思います。


■ビシュコフ/パリ管:パリ管らしさが際立った鮮やかなラフ2

見た目とジャケットデザインで損をしているような気がしてならないのが、ビシュコフ盤です。ビシュコフはどうにもパッとしない指揮者な感じがしますが、ラフ2ではラフ2らしい美しい音楽を聴かせてくれます。

細部まで行き届いた繊細な表現と、フォルテッシモの爆発には往年のパリ管らしさを感じます。かと言ってミュンシュのようなあからさまな表現をビシュコフは採りません。より長めにとったアーティキュレーションからもたらされるパリ管の音色は、非常に心地よく聴くことができます。とりわけ弦楽の音色はたまりません。最高です。ラフ2にしては少し派手すぎるきらいもありますが、私はプレヴィン盤よりこちらの方好きです。


■ゲルギエフ/キーロフ管:男性的で且つロシア的なラフ2

ゲルギエフのラフ2には、プレヴィン時代からの歴史があるLSOとの録音がありますが私はキーロフ管の方が好きです。アシュケナージやロジェストヴェンスキー程あからさまに歌うことが無いので、私はこれが一番好きなラフ2の録音です。

この1枚のポイントは4楽章のフィナーレです。どんな演奏もここが決まらないと後味が悪くなります。ゲルギエフ盤はこの最後のフィナーレになってようやく、トランペットが大胆なビブラートを伴って歌い上げるのです。それまでは比較的地味なこともあり、交響曲のフィナーレとして聴くには一番痛快な仕上がりになっています。

このゲルギエフ盤の3楽章の歌い方ぐらいの情緒感が、私にとって丁度良く感じます。歌いすぎることも淡々とし過ぎることもないからです。また、1楽章の提示部リピートを省略していないにも関わらず、演奏時間がほぼ1時間に収まっているのもプラスなポイントです。冗長さとは全く無縁です。


■マゼール/ベルリンフィル:交響曲として真っ向勝負を仕掛けたラフ2

マゼールのラフ2もやはり何と言っても4楽章のフィナーレです。久々にBPOの本気を垣間見ることができます。フォルテッシモの説得力はロシア物の専売特許ではありません。初めて聴いた時はたまげたものです。ムードの盛り上げ方にはプレヴィン盤と反対の趣があります。非ロシア物でここまで盛り上がる録音はありません。

それ以外のフレージングにはBPOらしい堅苦しさを感じるので、良くも悪くも交響曲としてのイメージが離れません。ビシュコフ盤のパリ管の弦楽が恋しくなりますが、BPOもBPOで賢明に弾ききっています。ここは完全に好みの問題です。


■キタエンコ/モスクワフィル:程良くロシア的なラフ2

ソ連時代末期のロシアオケの演奏の中でも、若手時代のキタエンコの1枚は比較的大人しいものだと思います。スヴェトラーノフの晩年盤やロジェストヴェンスキー盤ほどテンポを粘らないので、あちらに比べると随分聴きやすいロシア物です。

流石にスヴェトラーノフ/USSRの録音に比べると迫力は劣りますが、私のラフマニノフ像に照らし合わせるとこちらの方がしっくり来ます。あまりに爆発しすぎることが無いからです。他のロシア物に比べると無個性である感じは否めませんが、これはこれで立派なラフ2だと思います。これでも十分にラフマニノフを楽しむことができます。


■ヤンソンス/St.ペテルブルクフィル:緊張緩和の象徴のようなラフ2

90年代になってソビエト連邦が崩壊し、レニングラードフィルがサンクト・ペテルブルグフィルと名称を変えてから数年経った頃の演奏が、このマリス・ヤンソンスとのラフ2です。親父のアルヴィド・ヤンソンスもレニングラードフィルを振った指揮者であり、ムラヴィンスキーに負けず劣らずの怪演を世に残している指揮者でもあります。

若手時代のヤンソンスJr.の録音には、レニングラードフィル時代の名残を感じます。速いテンポでキビキビと進む楽曲進行と、弦楽と管楽の鋭く尖った音色が一番顕著な証拠です。かと言ってムラヴィンスキー時代のような統率感はなく、あの時代に比べれば随分民主的で、奏者のやりたい放題で演奏しているように聴こえてなりません。

ムラヴィンスキー時代のレニングラードフィルの演奏と比べると、やはりどうしても柔和した感じが否めません。それでもラフマニノフの音楽に対しては、柔和した方がより自然であり適していると私は思います。このヤンソンス盤は決して伝説的な録音では無いけれど、ソビエト時代に最後の別れを告げる自由への賛歌のような気がしてなりません。4楽章最後のフィナーレを最大限まで盛り上げない解釈には、まるで自分たちの本当の音楽はこれから始まるのだ、というメッセージなような気もします。これぐらいはっちゃけてくれた方が、より現代的でラフマニノフらしいと思います。これも大好きな1枚です。


■パッパーノ/聖チェチーリア国立音楽院管:現代のプレヴィン盤のような美しいラフ2

現代枠から1枚、ノセダ/BBC響の1枚と少し迷った後にこっちのパッパーノ盤に決めました。イタリア人指揮者であるパッパーノ、イタリアのオケである聖チェチーリア国立音楽院管から出てくる音楽とはどんなものなのか?聴く前は正直かなりの博打打ちだと思っていました。聴いてみるとそんな心配はどこかへ吹き飛んでしまいました。

ライブ盤ということもあって、白熱した4楽章が一番の聴き応えのある場面だと思います。終演後の拍手と歓声からも伺えますが、フランスのオケにも劣らない非常に美しい演奏なのです。もちろんドイツのオケのような重厚感はありませんが、ラフマニノフの音楽にはその方がしっくり来ます。パッパーノの解釈はオーソドックスで嫌味が無く、白熱していてもどこか余裕さを感じさせるイタリアオケの特質も相まって、プレヴィン盤並に聴きやすいラフ2だと思います。

このイタリアンコンビ、私は割りと好きです。同コンビのマーラーの6番も非常に面白いです。ラフ2よりはマラ6の演奏の方が好きです。流石にマーラー怪物指揮者の録音に比べると聴き劣りするのは否めませんが、イタリアンという先入観を無しにして聴けば随分マーラーらしいマーラーだと思います。あまりに売れないのかセール対象になっていることが良くあるので、見つけたら是非聴いてみて下さい。

上乃木 燕二
クラシック音楽のブログを運営しています。後期ロマン派〜新ウィーン楽派がメイン。交響曲ネタが多目。オペラ・室内楽を扱うべく奮闘中。元トロンボーン奏者。チェロやりたい。マーラーとテンシュテットが心の師匠。