マーラーの交響曲第2番の個人的名盤

マーラーの交響曲第2番は、途中から独唱と合唱が入ってくる異色の交響曲であり、純粋な器楽曲や絶対音楽が好きな人に倦厭されがちな曲だと思います。私もそうした一人でした。マーラーの1番や5番は気兼ねなく聴くことができるのに、何故かどうしても2番や3番は聴く気になれなかったのです。

過去の自分もそうであったからこそ言いたいのですが、マーラーの2番を聴かないのは絶対に損だと思います。ただの偏見であれば尚更です。まるでマーラーの1番4楽章を最大限まで拡張したかのような、絶望的な1楽章に始まり、お口直しの2楽章と狂気じみた3楽章を経て、4楽章の儚くどこまでも美しい”原光”、大編成のオーケストラ・合唱・オルガンが鳴り響く天上の音楽である5楽章は、マーラーでしか聴くことができない音楽に違いありません。同じく大編成で合唱のある8番とはまた違った趣があります。一度嵌ったら病みつきになること間違い無しです。

今回は私がマラ2に嵌った病的な録音から、割りとオーソドックスに楽しめるものも含めてご紹介したいと思います。


■テンシュテット/北ドイツ放送響

私をマラ2の世界へと本格的に引きずり込んだのは、このテンシュテット/NDRSOのライブ盤です。1楽章から既に、目まぐるしいテンポ変化と急激なクレッシェンドを伴って絶叫するヒステリックなオーケストラが聴こえてきます。葬送行進曲は今にも数秒後にも倒れてしまいそうになるほどフラフラとしています。これらがマラ2に対して良く似合った表現だと思うのです。

2楽章は比較的リラックスしながら聴かせてくれるものの、3楽章冒頭の強烈な一撃、ハンス・ロットの交響曲から引用された主題が突然フォルテッシモで飛び込んでくる様には、マーラーの2番に内在する狂気をあからさまにするものです。これだけやるにやったあとの4楽章の素朴な独唱は、恐るべきコントラストを伴った究極の美を聴き手にもたらします。4楽章までに騒ぐに騒ぎきった分だけ、この独唱が尚更光り輝きます。

そして最後の5楽章。テンシュテットの要求に対して限界を突破したオーケストラと合唱が聴こえてきます。最後に向かって狂気のフォルテッシモと繊細なピアニッシモが繰り返されます。中でもバンダとの掛け合いは実に聴き物です。最後の最後のフィナーレでは、オーケストラ・合唱・オルガンが全生命力を使い尽くすかのような巨大演奏を繰り広げます。バーンスタインほどコッテリしてはいないにしろ、これが実に丁度良く気持ちがいい歌回しなのです。一度聴き通したらまた最初から聴きたくなる、何度聴いても飽きが来ない、非常に珍しいマラ2だと思います。


■バーンスタイン/ニューヨークフィル

バーンスタインのマーラーここに極まれり、と言ったようなマラ2です。バーンスタイン独特の粘り気を伴った歌い方は、2番の曲調と合わさると尚更魅力的に響きます。テンシュテット盤ほど病的な表現では無いので、コッテリはしているものの十分に聴きやすいマラ2だと思います。繊細な箇所での儚い表現はバーンスタインの方がやや聴き栄えすると思います。


■ケーゲル/ライプツィヒ放送響

本当に何から何まで病的なマーラーの2番が聴きたいのなら、ケーゲル盤以外に有り得ないと思います。流石の私でもこのケーゲル盤は中々繰り返し聴く気になれません。オケも実にヘッタクソです。ライブ盤であるため多少はしょうがないにせよ、5楽章ではものの見事に音を外しまくります。ある意味で最も狂気的なマーラーの演奏だと思います。かなりの上級者向け、マーラー中毒患者向けの録音だと思います。


■クーベリック/バイエルン放送響(DG盤)

バーンスタインやテンシュテットよりもアッサリとして安定感のあるマラ2であれば、クーベリック盤が良いと思います。安定感のあるこのコンビから演奏されるマラ2は、十分に個性的でありアッサリした味付けになっていると思います。オケも独唱も合唱のどれにも文句の付けようがありません。はっちゃけ気味の演奏ではあるものの、これもまたマーラーらしいマラ2だと思います。


■ギーレン/SWR響

このギーレン盤は独唱と合唱を良く聴きたい人にうってつけのマラ2だと思います。クーベリック盤よりも大らかな表現に満ちているため聴きやすいのも良いと思います。マーラーの音楽に対する共感度と燃焼度は、過去のマーラー怪物達のマラ2比べれば低いけれどこれぐらいならまだ良いかな、と個人的に思います。


■ベルティーニ/ケルン放送響

マーラーの2番のオーケストレーションから聴こえてくる演奏の中で、私が最大限まで譲歩できるのはこのベルティーニ盤です。ギーレン盤より更に地味だと感じるベルティーニ盤ですが、最低限の迫力を保持しつつ歌の情緒を最大限まで重視している演奏だと思うからです。拡大された合唱曲かのように捉えると気持ちよく聴くことが出来ます。今回ご紹介している盤の中では一番真面目なマラ2です。

他にブーレーズやパーヴォ・ヤルヴィのマラ2もありますが、私にとっては前半部分の狂気さが足りず、軽過ぎであり、全体的な迫力が不足しているように感じられてなりません。わざわざマーラーの2番として聴くようなものでは無い気がします。5楽章だけ豪快にやられても薄ら寒いだけです。5楽章はそれまでの4楽章分のコントラストがあってこそ、天上の音楽として光り輝くのだと思うのです。更に歳を取るにつれて、そういった冷静で静かに響くマラ2も理解できるようになるのかもしれません。私もまだまだ子どもだと言うことです。

上乃木 燕二
クラシック音楽のブログを運営しています。後期ロマン派〜新ウィーン楽派がメイン。交響曲ネタが多目。オペラ・室内楽を扱うべく奮闘中。元トロンボーン奏者。チェロやりたい。マーラーとテンシュテットが心の師匠。